マレーシアのヘイズ、どこから?

~6月15日から、もう4か月……~
「……何を言ってるの?」
Erikはソファに座り、テレビを見ながら首をかしげた。
隣には妻のAyaと息子のJ君がいる。
J君は、ヘイズがひどくなってからオンラインの授業になったり学校に行ったりで、落ち着きません。
テレビでは、インドネシアの政府関係者が演説をしていた。
『インドネシアの森林は、ヘイズが発生していない時期においても、マレーシアおよびシンガポールに酸素を供給しています』
官僚らしい、丁寧で難しい日本語にすると、そんな内容だった。
J君は画面を見つめたまま、父親に尋ねた。
「パパ、今の話、どういう意味?」
Erikは息子のほうを向き、簡単な言葉に言い換えた。
「つまり、煙がないときは、マレーシアにもシンガポールにも酸素を届けているってことだよ」
「……うん。それで?」
J君は、納得したような、していないような顔でテレビに目を戻した。
そのとき、Ayaが口を開いた。
「これを会社に例えると、わかりやすいかもしれないね」
ErikとJ君がアヤを見る。
「インドネシアが会社の社長で、マレーシアとシンガポールが社員だとするでしょ?」
Ayaは続けた。
「社長は毎月、ちゃんと給料を払っていたの。つまり、毎月酸素を届けていたということね」
J君は少し考えた。
「じゃあ、今は?」
「6月15日から、給料が止まったの」
Ayaの説明に合わせるように、想像の中の会社では、社長が社員たちを前にして話していた。
「今、会社はいろいろ問題を抱えているんだ。給料はしばらく待ってくれ」
社員たちは困惑した。
しかし、給料は支払われないまま、時間だけが過ぎていった。
1か月。
2か月。
3か月。
そして、4か月。
ある日、社員の一人が社長のところへやってきた。
「社長、もう4か月も給料をもらっていません……」
社長は困ったような顔をしたあと、突然、社員を指さした。
「今までずっと払ってきただろう? 少しくらい待ってくれよ!」
社員は言葉を失った。
すると社長は、さらに大きな声で言った。
「恩を忘れたのか? お前たちの祖父母の時代から、ずっと給料を払ってきたんだぞ!」
「でも、今の給料は……」
社員が言いかけると、社長はその言葉を遮った。
「そもそも、うちの会社ができる前から、お前たちの祖父母に給料を払っていたんだ!」
社長は、まるで過去の貢献を持ち出せば、現在の問題がすべて解決するかのように話し続けた。
社員たちは顔を見合わせた。
誰も、何を答えればいいのかわからなかった。
その様子を聞いていたJ君が、ぽつりと言った。
「……それ、今の給料の話とは関係なくない?」
Erikは思わず息子のほうを見た。
Ayaはうなずいた。
「昔、ちゃんと給料を払っていたことと、今の問題は別の話よね」
そして、テレビの画面に目を向けた。
「過去にどんな貢献があったとしても、今、ヘイズで困っている人たちがいる。その問題は、ちゃんと解決しないといけないよね」
客室に、しばらく沈黙が流れた。
J君はソファの横に置かれた自分の青いリュックを見つめた。
本当なら、今ごろ学校に通っているはずだった。
友達と話したり、授業を受けたり、いつもどおりの日常を過ごしているはずだった。
けれど、現実には、まだ家にいる。
J君は小さくつぶやいた。
「……来週は毎日学校に行けるといいな」
テレビでは、まだニュースが続いていた。
🌴 タビニコファミリー漫画シリーズ
📖 第6話
「Ayaの衝撃事件簿 in Malaysia⑥」

